- ゆっきー監督
ゆっきー監督のサブカルチャー談義13
みなさんお久しぶりです。
だいぶ更新が遅れてしまいました。
この二か月、新作映画を作っておりましてなかなかコラムの時間が作れず…。
ほぼ映画は完成したので、今後は積極的にサブカル談義をしていきたいと思います。
さて13回目の今回はこちらの作品を談義しましょう。

2018年11月現在、アニメで放映中の「中間管理録トネガワ」です。
ギャンブルをテーマにし、独特の世界観が人気の「カイジ」
カイジにおける悪魔的強敵「帝愛グループ」の幹部「トネガワ」を主役にした、カイジのスピンオフ作品です。
我々チーム西の森の二人も毎週このアニメを楽しみにしています。趣味が違う僕らが二人とも同じアニメを楽しみにしてるというのは、極めて異例のことです。
それほどこの作品は面白い。
本編のカイジは、命がけのギャンブルによって「生きざま」を描いていますが、この「トネガワ」はコメディタッチで、「会社」というシステム内での「生きざま」を描いています。
コメディタッチなので、笑えるのは当然なのですが、この作品はただの笑えるコメディとは一線を画しています。
というのは、かなり「現実的なサラリーマン」の世界を丁寧に描いているからです。
・無茶苦茶な上司
・それに耐える中間管理職
・上司達に従う平社員
本当にどこにでもある設定ですよね。
サラリーマンなら誰でも共感できそうなこの設定を、巧みな人間観察によって、「人間心理」を見事に浮き彫りにしています。
コメディの演出をしているので軽く見られるかもしれませんが、トネガワで描かれているこの「人間心理」は、会社で働いている全人類の核心とも言えます。
例えば同僚で「ダメな人」がいたとして。
日々の関係性や空気感があるので「こいつダメな奴だな…」と内心思うだけで言えないことは誰にでもあるでしょう。
福本先生はこれらの緊迫した状況をたった一言「ざわざわ」という擬音でいつも表現します。
上司の無茶苦茶な指示に耐える部下も同様、言いたいことはなかなか言えません。
つまり、会社というシステムに潜り込んでしまった人間は誰でも、規模は違えど常に「ざわざわ」しているわけです。
この「ざわざわ」を発散するのが「飲み会」なのは、みなさんご存じなはず。
仕事の愚痴、同僚の愚痴、愚痴、愚痴、愚痴…。
すなわち「愚痴」というのは「ざわざわ」を言語化したものですから、いかにサラリーマンが日々「ざわざわ」しているか、よく分かります。
みなさん、ご苦労さまです。
この作品はこうしたサラリーマンの核心を、難解にせず、誰にでも伝わるように明るく描いている傑作です。
うちの会社もこうだな
トネガワ先生みたいな上司だったらいいのに
こういう奴、うちにもいるなあ
などなど、見ているだけで自分の環境とアニメをつい比較してしまうことでしょう。
さらにこの作品の素晴らしいところは、「エゴ」を悪びれずに描いていることです。
ある時、ハンチョウというキャラクターがサラリーマン達のランチタイムにて、そば屋でビールを飲んでいます。
短い休憩中に急いで立ちながらそばを食べているサラリーマン達。
そんな彼らを尻目に「生ビール」をうまそうに飲んでいるハンチョウ。
「こいつ昼間っから何やってんだ!?俺達は急いでそば食ってるに、ビールかよ!しかもそば食わずに天ぷらをつまみに!?」
怒りと同時に羨望の眼差し。
ざわざわ…。
その時のハンチョウの優越感といったら、そりゃもう半端なものではありません。
ある意味、つまみは天ぷらではなく「ざわざわしているサラリーマン達」というわけです。
人生を楽しく過ごしたいのは誰もが同じです。
そして楽しく過ごすためには、自分のエゴを発揮しなければいけません。
人生とはエゴをどこまで発揮させることができるか?でその濃度が変わってきます。
エゴというと良くない響きに感じられますが、夢ですらエゴの一種。エゴとは人間の本能です。
お金が欲しい、名声が欲しい、など。
どうにも大人になると、客観的になりがちで、「欲しいものは是が非でも欲しい!」と叫びづらくなるものです。
子供は欲しいものが得られないとすぐ泣きますよね。
泣くほど欲しい。けれど泣くわけにもいかないのが社会に出たものの悲しい性。
…ですが、真にエゴを発揮する人間というのは「自分が泣かないようにエゴをコントロールしている者」です。
もし人生において「勝者」と「敗者」がいるならば、エゴを操作し、物質的にも精神的にも充足を得た人が「勝者」となるでしょう。
逆にエゴの抑圧を強いられ続ける人が「敗者」です。
平日の昼間からビールを飲む
たかがそんなこと一つでも、人生の一瞬を彩ってくれます。
ハンチョウというキャラクターはエゴを発揮し、その一瞬、「絶対的勝者」となっています。
世の理をせせら笑う悪魔的勝者です。
立ちながらそばを食べているサラリーマン達は、必ず感じるはずです。
得体の知れない「敗北感」を。
羨ましいと思った瞬間、彼らはハンチョウに屈しているのですね。
このシーンを見て僕は、人生の縮図を感じました。
笑いながらもどこか笑えなかった。
とどのつまり、見ていた僕も「ざわざわ」し、ハンチョウに屈したのです。
こうした人生の縮図的エピソードを満載にちりばめた「トネガワ」
どの話を見ても、「ざわざわ」するのはお約束します。
にもかかわらず、愉快で憎めないのは娯楽作品として完全に成立している証拠です。本当に素晴らしい出来のアニメーションです。
制作者としてコメディ作品のお手本にもなる悪魔的クオリティ。
今期イチオシのアニメ「中間管理録トネガワ」
サラリーマンのみならず、誰もが楽しむことができるでしょう。