- ゆっきー監督
ゆっきー監督のサブカルチャー談義7
今日はこれについて談義しましょう。

1999年に日本で上映されたBuffalo'66。
ヴィンセントギャロが監督、脚本、音楽、編集を手掛けたサブカルチャー作品、というよりは、ミニシアター系と言った方が適切でしょうか。
このヴィンセントギャロは、僕の中で、最も「アーティスト」という名前が似合う男でもあります。
まず肩書きが「俳優、ミュージシャン、画家、映画監督」という人です。まるでどこかの誰かの誰か(私です)目標にでもなっているかのような多才ぶり。
日本ではこのバッファローで一躍脚光を浴びましたが、実はハリウッドの大作にも役者としてけっこう出ていました。ジョニーデップと共演したりなど、積極的に活動していました。
ところが、この人は一ハリウッド俳優を目指しているような生粋の役者さんではありませんでした。
とにかく俺イズム。
自分の美学のみをとことん追求するアーティストだったのです。
その美学が形になったのがこの作品です。
とにもかくにも、とんでもない演出とプロット
さらには、百歩譲って「ぽっちゃり」と言えるクリスティーナリッチのヒロインっぷりの相乗効果もあり、あまりに個性的。あまりに愛おしい作品になっています。
当時、あのクリスティーナリッチは実際にかわいいと言っていいのか?をよく友人と議論したものです笑。
かわいいです。といっても造形的な意味ではなく、存在としてかわいいです。
まさにエキセントリックな作品といっていいでしょう。僕の中ではいまだにこの作品こそがラブストーリーの代名詞となっています。
クズ男とぽっちゃり天使のラブストーリー。
日本作品によくいるような半端なクズではありません。
ギャロ演じる主人公はまさに本物のクズです。
ところが、このクズ男が妙に魅力があるのです。
当時僕は必死で考えました。なぜこんな男をかっこよく思ってしまうのか?
普遍的な意味でこの主人公に悪はないのです。
二元論ではありません。二元論で言えば悪です。
見てもらえれば分かると思うのですが、この男には悪も正義もありません。
ただの弱い男です。
無駄をそぎ落として、純粋なクズを描いたら、悪ではない男が産まれた
そういったキャラクターなのです。
当然彼が悪ではないクズになれたのはクリスティーナリッ演じるぽっちゃり天使のおかげでもあります。
ロケ中から役に入り込むように、「もっと俺を愛せ!!」と演技指導していたギャロとリッチは相当もめていたようですが…笑。
そのストイックな姿勢は明らかに映像に出ています。
音楽も自分で監修したギャロのセンスもまた素晴らしく、キングクリムゾンやイエスなどをとんでもないほど効果的に使っています。これには本当に驚きました。この映画の為にこの曲はあったんじゃ?と思わせるほどのチョイス。この映画を見て、僕はイエスやクリムゾンを聞くようになったくらいです。
編集も立ち会ったギャロは、どんなデバイス(当時はまだデバイスなんてものはなかったけれど)で視聴しても最高の色合いになる為にかなり試行錯誤したとのこと。
映画館で見るのとテレビで見るのでは、作品の色合いや雰囲気が全く違います。それすらも考慮した上で編集も行っていた、ということです。
それほどまでにこの作品を愛していたのでしょう。
演出もかなり独特な演出をしていて、いわゆる大作映画では絶対にやらないエッジの効いた映像演出をしています。
いわゆるインディーズムービーの至高の作品とも呼べると僕は今も思っています。
生ぬるい恋愛映画に、がっつりメスを入れてくれる作品ですね。恋人同士で見ると、変に影響されて、喧嘩になる恐れもあるので、カップルでは見ない方がいいかもしれません。
僕がヴィンセントギャロに最も心を奪われたエピソードがあります。
まだ彼が売れない時、レストランで食器洗いのバイトをやっていたそうです。
この時彼は、絶対に手を抜かず、完璧に食器を洗うことだけに集中していたそうです。どうやったらもっとこの皿はキレイになるのか?を考えながら、ひたすら食器を洗っていた、とインタビューで彼は言ってました。
売れない頃はどうやったら売れるか?など、バイト中には誰だって考えるものです。夢を追っている人間が食器洗いに集中するなんてことは、常人には無理です。
ところがギャロは違いました。
「それがアーティストってもんだ」
そうインタビューで語っているギャロに僕は心底惚れました。かっこよすぎるだろ!
僕がチーム西の森を結成して映画を作ろうと思った時、頭に浮かんだのは、まさにヴィンセントギャロでした。
こんな風に枠にとらわれないアーティストになりたいと僕は今も思っています。
僕にとっては大大大先輩のような人です。憧れの人です。
大作ばかり見ている人がこの作品を見たらと、きっと衝撃を受けますよ。世界はなんて広いんだ、と思うでしょう。映画って本当にいいものだ、と思うことでしょう。
彼らのお茶目に笑えて、ぎゅっと泣ける、中身が濃い映画。
それがBuffaro'66。
個人的にはぜひぜひおススメしたい作品です。